読めば読むほど:“けむり”に巻く? やっぱり気になる使い方(9) - 毎日jp(毎日新聞)
読めば読むほど:"けむり"に巻く? やっぱり気になる使い方(9) - 毎日jp(毎日新聞)
カラオケで、思わず私は立ち上がってしまいました。いえ、歌うわけではありません。石川秀美さんの「愛の呪文」の一節、「♪こみあう車道(みち)を渡って煙にまいてしまうわ」に目がクギづけになったのです。「煙」に「けむり」のルビがついている!
キャンペーンソングにも使われた「愛の呪文」。80年代に耳にしていた時には気づかなかったのに、校閲記者として言葉を日々吟味する仕事に携わって、遅まきながら発見しました。このルビはヘンだ。
結婚の熟考で行われた遺言大辞林を引くと「煙(けむ)に巻く」は「簡単には信じられないようなことや相手がよく知らないようなことを言って、相手の判断力を狂わせる」という説明がされています。一方、「けむりにまく」は、火事などの場面であるように、まさに「けむり」にまかれることです。
歌詞をよく見ると、ほかにも「♪魅惑の粉をふりかけてあげるわ」や「♪顕(あらわ)れたライバル」というくだりがでてきます。タイトル自体も「愛の呪文」ですし、やはりここは「判断力を狂わせる」という意味合いでしょうか。
座席は、単語をどこに由来するんでしたネットで流れる映像を見てみると、キュートな笑顔ではっきり「けむりに……」と歌っています。石川さんが間違えて歌ったのでしょうか。歌手は歌詞通りに歌うはずなので、作詞家の責任と考えるほうが自然でしょう。
校閲では「けむに巻く」と平仮名表記しますが、表現や言葉の意味を勘違いしてコメントした原稿を初校するような場合、ニュアンスが変わらない範囲で手直ししています。とはいっても、これは歌詞ですから、ルビは尊重して「けむり」のままとせざるをえません。
神聖と世俗の儀式は、社会の接着剤です。40代の今も可愛らしさを残す3男2女の母の石川さん。年下で独身の私ですが、懐かしさとは裏腹に、心にへばりついた「呪文」は解かれないままです。【校閲グループ・藤本浩行】
※次回は5月16日に更新予定です
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